“茅葺き屋根の魅力を伝え続けるために伝統の更新が必要”茅葺屋根職人・相良育弥さん

RIK
様々なイベントや取り組みで作成した作品は評判よかったとお聞きしました。

相良
そうですね、どの作品も好評をいただいて。淡河の本陣跡に恵比寿神社のお社を茅葺きで作りましたが、喜んでいただいて。この施工方法はヨーロッパのやり方なんです。その手法で日本の神社を作ったのも新しい点であり、ポイントです。 

相良さんが手掛けた淡河本陣跡の恵比寿神社

RIK
茅葺屋根業界の若手の職人はどうなんでしょうか、やはり少ないのでしょうか。

相良
そもそも茅葺屋根の業界自体が小さい業界ですから、絶対数で言うと少ないですがそれでもここ数年、若い職人が増えているんです。でも茅葺き民家は減少傾向にあります。このままでは需要と供給のバランスがおかしくなります。
RIK
造園業界でも似たようなことは起きましたよね。庭園のある住宅が減って需要と供給のバランスが悪くなりました。でもエクステリア・外構業など、造園屋さんが参入できる間口があって造園もやりつつエクステリア施工もする造園屋さんも増えています。しかし茅葺きは需要と供給のバランスが悪くなったからといって、茅葺き職人が瓦を葺くわけにはいきませんよね。

相良
同じ屋根ですけど、全く違うものですからそれはないですよね。と、なるとやはり新しい需要を自分たちで作り出すしかないんです。それが若い世代への努めでもあると思っていますし、弟子をとると『こいつらの将来をおもしろくしてあげたい、古い茅葺きの修復ばかりじゃなくて、面白いなにかに恵まれるようにしてあげたい』って思います
RIK
そのために様々な取り組みに積極的に参加している側面もあるんでしょうね。

相良
『伝える』ということも、今の茅葺き職人に必要なことだと思います。説明努力をすること。さっきのオランダで法改正されて住宅に用いられることになった話も、もっと職人が発信していくべきで「茅葺屋根はこんなに自由にできる、可能性に富んだ魅力のある屋根なんだ」と言うことを伝えなくてはいけない。口下手で、黙々といい仕事する職人気質さも大事ですが、茅葺きの素晴らしさや面白さを説明できる機会があるなら積極的に説明しないと。そういう意味では僕は日本一、屋根から降りてる茅葺き職人かもしれないです。茅葺き屋根の魅力を伝えるために、積極的に屋根からおりてあちこちで、茅葺屋根を葺いたり、話したりしています
RIK
今後の目標や将来にむけて思うことがあれば聞かせてください。

相良
住んだらその魅力がわかるのが茅葺屋根です。イベントで一時的に体感してもらってももちろんわかっていただけますが、生活を包むものとしての魅力はどの素材にもないと思っています。となると、やはり新築の住宅を作りたいです。法改正が必要ですしかなり困難なことではあるけど、その働きかけをしていきたい。伝統的なものに対するリスペクトは決して忘れないで、良い意味で伝統的なイメージを取っ払っていきたいです。

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取材日当日に、施工中の茅葺きの現場を見学させてもらいました。築200年の神戸市の文化財指定されている邸宅。茅は竹と同じでしなやかなので地震の揺れを逃したりいなしたりするそうです。吹き替えはだいたい20~30年に一度、一世代に一度葺き替えるそうです。茅葺き屋根の素晴らしい点は「どこも捨てるところがない」廃材がでないこと。土に還ったり、薪になったり、燃料になったりして屋根からおろされても再利用されます。茅葺きは何人かの職人で葺いていきます。設計図がないため「リズムとコード」が重要で職人間のコミュニケーションが必要不可欠です。職人同士が現場を手伝いあい、ライバルだけど協力しあう体制で成り立っているそう!

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