新建新聞社主催の住宅産業大予測フォーラム2020に登壇されていたLIFULL HOME’S 総研所長の島原万丈氏のセミナーが大変興味深かったのでレポートします。
2019年5月にリリースされた「住宅幸福論 Episode2 幸福の国の住まい方」をベースに、幸福度ランキングで毎年トップ3位内にランクインする幸福な国・デンマークと日本の住まい方と比べることで、日本の住生活を冷静に振り返り、日本人なりの幸福な住まい方を紐解いていくセミナーでした。
序盤に島原氏が挙げたのはずっと論じられてきた問題「持ち家vs賃貸 どちらが良いのか」の問題です。新築の持ち家が良いとされてきたのは「結婚して子供を産んでいつかは庭付一戸建て」という「人生すごろく」を共有していた昭和の時代のなごりです。
この昭和を引きずった平成の住宅観の特長は
・地価上昇(土地は資産)
・一家族一住宅
・性役割分担されたファミリー世帯
・正社員・終身雇用・年功賃金
・都心通勤
という条件がそろえば大きなメリットになりますが、現代においては地価の上昇は見込めず、シングルの増加・家庭を持たない人口増、「父は仕事、母は専業主婦」という性役割分担の消失・女性の自立・多様な家族構成・、終身雇用は崩壊・年功賃金は破綻、要するに「資産になるから家を持つ」というロジックが成立しなくなってきています。
それでも「現在の住まいへの満足度調査」では賃貸派より持ち家派の方が満足度が高いという結果がでています。結果は持ち家派7.3ポイント、賃貸派6.5ポイント。
しかし島原氏はここである指摘をしました。それは「世帯年収と住まいの関係」です。世帯年収が高いほど持ち家率は高く、世帯年収600万円を境に持ち家率は大きく上昇。世帯年収が高いほど持ち家を新築で購入した割合が高くなります。周知の事実ではありますが、世帯年収と幸福度は比例しており世帯年収が高いと幸福度もあがるといわれています。
すなわち世帯年収の高い層ほどスペックの高い持ち家に住んでいる割合が大きいので、単純に住宅タイプ別に比べてしまうと、年収の影響が強く出ていることを指摘しているのです。これまで多くのリサーチは、住宅タイプによる違いを比較しているつもりで、実際のところは世帯年収による幸福度の違いを比較していただけということになります。
そこで年収という交絡バイアスを取り除いた調査分析をしてみたところ、
持ち家派7.5ポイント、賃貸派7ポイントと依然として持ち家派のポイントの方が多かったですが、調整前よりは差が小さくなりました。「世帯年収やスペックを均一にすれば持ち家も賃貸も幸福度は変わらないのではないか」と島原氏。
・住んでいる街が好きになる
・家族とのふれあいや趣味に没頭する時間的ゆとり
・建物の経年変化をポジティブに受け止める
・賃貸住宅では快適性の向上は大切
おおむねハコより暮らしが重要、幸福度には住居のタイプより「暮らし方」が最重要課題なのだと島原氏。
そして今回、暮らし方の比較対象に選ばれたのはデンマーク。デンマークといえば「ヒュッゲな暮らし」。ヒュッゲとは居心地の良さを意味するデンマーク独特の概念のことで世界的な注目が集まっています。
ちなみにデンマークの住宅価格事情は
デンマーク全体 戸建て3,689万円 / アパート3,965万円
コペンハーゲン 戸建て7,891万円 / アパート5,314万円
賃貸戸建て15.9万円 / アパート12.9万円
となっており、日本の住宅価格とそんなに大きな差はありません。
しかし住宅面積は戸建てが151.6㎡(コペンハーゲンは135.4㎡)集合住宅が93.0㎡(コペンハーゲンは80.1㎡)となっており、日本の戸建て平均132㎡、集合住宅平均70㎡より広い住宅面積となっています。
日本の住宅に対する幸福度、デンマークの住宅価格と面積を理解したところでいよいよ暮らし方の比較に続きます!
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