「住まい」に自己実現を求める?デンマークと日本の対比【後編】

LIFULL HOME’S 総研所長の島原万丈氏の「住宅幸福論 Episode2 幸福の国の住まい方」をベースに、幸福度ランキングで毎年トップ3位内にランクインする幸福な国・デンマークと日本の住まい方と比べることで、日本の住生活を冷静に振り返り、日本人なりの幸福な住まい方を紐解いていくセミナーレポート、後編です。


デンマークと日本の「住まい」への比較。まずは「自分にとって住居とは」どういうものであるか、という設問。

デンマーク、日本とも、家とは「ほっとできる・落ち着ける・疲れがいやせる場所」だという考えが基本的です。デンマークでは、家とは「友達と交流」し「自分のスタイルを発信する場所」という考え方が顕著なのに対して、日本人は「家はプライベートな休憩場所」として捉えているのが顕著です。



「自分のスタイルを発信」するためには理想となる住まい像が必要です。理想の住まいの有無に関しては、理想の住まいイメージを強くまたは明確に持っているのがデンマーク人は53%なのに対して日本人は26%と半分ほど。(調査数がデンマーク1000人に対し、日本人2000人なので実際の比率はもっと低い気がしますね)


理想の住まい像に関する調査では「好きな物に囲まれてリラックスする」は両国とも共通です。日本人は大手企業の完璧さや最新の設備、ローメンテの住宅を望んでいることがわかります。デンマーク人は、利便性や手軽さを望む一方でインテリアや創造性、カスタマイズを望む項目で大差がついています。


住まいには地域性も重要なものですが、自分の住む街への調査では大きな違いが浮かび上がりました。
この設問はマズローの段階欲求説を模して、生理的な満足度を示す項目から精神的な満足度を示す項目までの22指標を設定されています。面白いのは全ての項目でデンマークが上回っていること。日本人はその中でも「通勤・通学」「交通機関」「静かな環境」「治安のよさ」など安全性や快適性を求めていることがわかります。デンマーク人は「安全」「快適」のスコアが高めである上に「自己実現」という上層のカテゴリーでも日本を大きく上回っています。「自然」「商業施設」「景観」「自分らしさ」「チャンス」など所属、承認、自己実現など高次の欲求が顕著です。


家で気に入っている点での設問では全体的にデンマーク人は回答が多岐にわたるのに対して日本人の回答は少なかったようです。
日本人の上位は「日当たり・風通し」「持ち家である」「新築で取得」に対し、デンマーク人は「友人を呼んで交流」「創造的」「自分らしさ」で大差。快適性は当然のこととして、所属や自己実現など高次の欲求までも家で満たしています。


また、デンマーク人と日本人のインテリアに対する行動も大きな違いが。植物やアートやキャンドルを飾ったりするデンマーク人に対して、日本人は「こまめに掃除や片づけ」以外の行動が全般的に少ないという結果に。また地域のコミュニティ、関わり度合いについても地域コミュニティへ参加率の高いデンマーク人に対して日本人は消極的でした。

これらのデンマーク人との対比でわかった日本の住まい方は…

◆デンマーク人
家は交流の場と考え、インテリアによって自分を表現し、人を招いて交流することで住生活の幸福を得ている。ヒュッゲを重視し、住空間の改善に熱心。家に快適性、空間の演出、社交性や親密さ、自己表現や創造性を体現させ精神的な次元まで求めている。

◆日本人
利便性や治安を重視した新築の家を好むが、居心地の良さを自ら改善していこうとする意欲は低い。プライバシー、新築、ローメンテ、利便性、安心・安全など機能的な次元にとどまり、精神的な次元は求めていない。


島原氏はさいごのまとめとして以下の点をあげていらっしゃいました。

★デンマークに学ぶ幸福な住生活へのヒント★
デンマーク人の住まいを自らより良くしようという意欲と行動が、「幸福な住まい」をつくる。日本人の住まい方に欠けていたのは、住むことへの主体性だった。

★幸福論的住宅産業への視点★
ハコの供給産業から住まい手の主体性を育てる産業へ


「主体性のなさ」か…。家を通じて自己実現する欲求というのは確かにあまり日本人にはない点だなあと思いました。インテリアにこだわっている風に見えても、画一的なスタイルのものがぶわーっと流行って同じような「流行りのインテリア」だったりしますし…。かといって、誰しもが家を通じて高次な欲求をもつことも難しそうです。やはり作り手と住まい手が一緒になって価値観を変えていかないといけないんだろうと思いました。

出典元:住宅幸福論Episode2