SPECIAL
特集
職人×クリエイターで構成する協力団体“TUCREW”成功のワケ
TUCREWは長野県の北信エリアで活動している職人×クリエイターの法人・個人で構成する相互協力団体。
お互いがお互いの営業マン、をモットーに協業し、地域住民のお困り事に応えるべく様々な取組を企画中です。
発足の経緯、事業領域の拡大やシナジー効果について発起人である、株式会社エストガーデン代表取締役 中澤祥太郎氏にお聞きしました。
ーー中澤さんご自身は独立されて7年目、TUCREWを立ち上げたのが1年半ぐらいだそうですが、発起人としてTUCREWを立ち上げたきっかけを教えてください。
「職人の育成や職人の横の繋がりの強化を…という思いはもちろんありつつ、地域に密着した独自サービスを展開したいというのがきっかけでした。私たちTUCREWの重要なキーワードで“御用聞き”というキーワードがあります。地域の皆様が困った時に『TUCREWに言えば解決できる』という構図づくりが大きな目標です。あとは、TUCREWに入ってくれるメンバーの基盤を盤石にすること。私自身も経験したことですが、独立して安定するまで苦労や大変なことも多かったです。私は良い仲間と諸先輩方のサポートもあり乗り越えることができましたが、社会状況や背景によっては乗り越えられない人もいるかもしれない。職人として腕には自信がありましたが、経営となると腕がいいだけでは立ちいかないこともあります。1人親方の面々などはやはり同じ苦労をしていて…。TUCREWに入ることで、お互いの事業の安定性を向上させることができると思っています。どっちが元請けで下請けでとか関係なく、仕事を回しあって協業していくことができます。」
▲TUCREW webサイト掲載のキャッチコピーと説明文
ーーメンバーの皆さんはもともとお知り合いだったのでしょうか?
「1番最初のコアのメンバーは私の協力業者の方が中心です。もともと付き合いがあって、そこからは入ったメンバーの紹介制です。現在は7割ぐらいが職人で3割がクリエイター職という構成です。紹介以外にもこの活動に興味を持ち問い合わせの上、入った方もいます。」
ーー仲の良い職人同士が仲間と協力しあうのはよくありますが、団体としてビジョンを明確にして活動しているのは全国的に見ても珍しいと思います。運営はどのような分担で行っているのでしょうか。
「ビジョンやパーパスは掲げてはいますが、柔軟性は大事に思っています。大義は“地域貢献”ですから、その芯がブレなければある程度フレキシブルに動く、スタイルはどんな形でもいいし、この集団が流動的に変化していくのも楽しみにしています。その前提の上で、役割分担は決めています。ブランド戦略グループと広報SNSグループ、イベント企画グループがあります。定例会は月に1回リアルでおこなって、あとは各グループごとのミーティングも都度行っています。」
▲TUCREWメンバーで施工中の様子(左) 定例会の様子(右)
ーー高校へも講師として授業をされたとお聞きしたのですが…
「長野工業高校ですね。高校で講話するのは建設会社の公共事業をされている方が登壇されることが多いと思うんですが、私は民間の地場で活動している一職人としての立ち位置で講話する機会がありました。造園土木と一口に言っても仕事の幅が広く、思っているより様々な仕事があることを知ってほしい、と。自分で気をつけてたのが“何でも聞きやすい職人のおっちゃん”みたいな存在でいようと思って(笑)。興味を持ってくれてTUCREWの各社に入りたいとなってくれるのも嬉しいのですが、『自分には何が向いていて、何が向いていないか』の取捨選択が早いうちにできるのも大事とも思います。職人はそれなりに稼げますが、苦労も多いし何より体が資本なので基礎的な体力や体質の影響もあります。現実的な大変さ、リアルさをしっかりと伝えるのも大人の役目です。職人の道が無理でもプランナーやCADオペレーターになる道もあり、建設業に従事するには色んな方法があるので、選択肢がたくさんあることを若い世代には知ってほしいです。」
ーーTUCREWの目的として次世代の職人の育成も考えられていますか?
「職人の育成の部分に関しては段階的に考えています。『職人をやってみたいな』って人を受け入れる体制づくりはしたいと思っています。若い学生に限らず、社会人経験者のジョブステップの選択肢の一つとして。TUCREWに入っている会社の業種は多岐にわたっているので、自分に合った仕事が見つけてもらえるかもしれない。東京からもアクセスがいいですし、長野県ってわりと移住者も多いんです。まだ理想の段階の話なのですが、移住者に向けての職業体験なども行政と一緒にできればいいなあと思います。住民が増えることは地域の活性にもなりますし、移住の選択肢にTUCREWが柱となれれば面白いな、と。」
ーー色々な取り込みをされているのと、そんな素敵な構想まであるのですね…!
TUCREW内で協業もたくさん生まれていますか?
「TUCREWでは“お互いがお互いの営業マン”をモットーにしています。例えば私がお庭のプレゼンでお客様宅を訪問した際に、庭の案件にはつながらなかったけれど、お子様が七五三のご年齢なんだったらうちのグループにカメラマンがいてとてもいい写真を撮るんですよ、という形で自分の仕事ではなくてもお客様にTUCREWとの接点を作るようにしています。やっぱり「地域の御用聞き集団になりたい」というのが一番の目標なので。」
ーー事業領域としては拡大して、事業的にも成長は感じられてるっていう感じでしょうか。
「そうですね。協業の成果を各自で感じている部分はあるかと思います。グループのメンバーもFPの方や不動産の方が入ってきたり、専門分野が増えています。ただ、同じ温度で同じ速度で同じように活動するのは無理な面もあるので、活動内容や量は各人の差配にお任せしています。」
ーーTUCREWが精神的な支柱になってるとか、安心感みたいなものはお持ちだったりするんでしょうか。
「私僕自身もありますし、みんなも安心感は持っているのではないかなと思います。私は創業者で、勢い任せで起業して経営のことを理解しきれてない部分もありました。メンバーの中には2代目、3代目の代表もいるので経営についての質問もでき、心強いです。些細な疑問を聞くことができて、答えてもらえるのは安心感があります。あとはメンバーが私を「いい職人がいます」とお客様に紹介するわけですから、よい緊張感があり、背筋を伸ばして頑張ろうとモチベーションアップになります。」
ーーTUCREWは地域にとっても、加入する人にとっても良い集団だと思うのですが、他の地域で同じようにグループを発足したとして、運営のポイントになる点はありますか?
「長野の地域性なのですが紹介だと成約率があがる、ということがあります。北信地域の特性かもしれません。新規開拓はちょっと難しいけど、誰かの知人や紹介となるとわりとすぐ受け入れてくれたり…。ひとつひとつの仕事を全力で取り組んで、結果を出すのが前提ですがやはり紹介が一番強い案件創出方法だと思います。グループをうまく導くコツとしては、一番大事なのは人間性です。いくら技術があっても、それだけの人は大成しないので…。性根の部分が本当に大事だなとおもいます。曲がっていない性根。
ちゃんと人の話に耳を傾けることができること。そういう性根でないと技術も伸びないですし、時代に合わせた変化に対応できないですし。変化を柔軟に受け入れられる、素直な性根を持つ人たちの集まりはきっと成功します。」
ーーグループに入りたい場合はどのような感じの流れになるんでしょうか?
「TUCREWメンバー2人以上の推薦後、ブランド戦略グループと面談をしてもらいます。
そこで意思疎通が取れてるか、同じビジョンを共有できるかを確認します。現在メンバーは23人、社数は21社になりました。その中でエクステリアに携わる社数は4社です。4社で競合はしないですし、仕事を回しあって協業しています。また、現段階で3社から参加希望をいただいています。まだ発足して1年半ですが、いろんな化学反応が生まれいいシナジー効果がでているので『地域の皆さんの御用聞き』として認知してもらえるために、ひとつひとつの仕事を丁寧にやっていきます。」
:取材協力:
TUCREW
株式会社エストガーデン 代表取締役 中澤祥太郎氏
取材日 2024年11月8日