華麗な受賞歴、柳のようなしなやかさ、遊びのあるゆるさ。庭人の山口陽介さんが面白い

2017年4月に神戸市の淡河宿本陣跡、剪定ワークショップがありました。剪定の講師として招かれたのが数々の輝かしい受賞歴のある、各方面で注目されている庭師・山口陽介さん。剪定ワークショップの模様のレポ&山口さんに「庭づくり」についてのお話をお聞きしましたので公開します。

淡河は神戸市内ですがとても自然豊かな場所です。そんな淡河に江戸時代から残る「淡河宿本陣跡」。庭の大規模な剪定が行われるのは、おそらく70年以上ぶりだとか!すでに庭の粋をでて、森と化していたお庭を山口さんを始めとした庭師集団と地域のお手伝いの皆様がどんどん綺麗にしていきます。

まるで森のように鬱蒼としていたお庭。


山口さんら職人の技で刻々と変化していきます


光と風が通る、美しい庭へ大変貌を遂げました!

ワークショップを見て&聞いて、気づいた点やハッとした点をいくつか。
・枝のどれを残すか、活かすかは遠目で見ながら判断する
・下草類を入れる時はポイント的に花の咲くものをいれる
・下草類や植物はなるべく地域に生えているもの、環境の違う植物を無理にもってこない
・剪定で庭はつくられる、剪定で庭に品が出る
・かといって、剪定が大変すぎる庭はつくらないこと。ちゃんと寄り添える距離感の庭をつくることが大事。決め事をつくるとしんどくなる

 

ワークショップ後、山口さんにお話をお聞きしました。

RIK
目覚ましい活躍の山口さんですが、最近たずさわった仕事で楽しかったな~と思う仕事を教えてください。 

山口
熊本の保育園の園庭の仕事かな。「まちの縁側」というテーマで、保育園の園庭なんだけどそこは地域のコミュニティの場でもあるんです。“他人事から自分ごとにさせたい”と思ったんです、たくさんの人にこの園庭に関わってほしいと。ただ植物を植えて終わり、じゃだめだと思いました。収まりが綺麗なだけの庭なんて、自己満足でしかないんですよ。そうじゃなくて本当の意味で人に愛されるものって何だって思うんですよね。それはやっぱり人と人が触れ合って顔を合わせて他愛ないことを喋れる、コミュニティの場所なんじゃないのかなってその場所をどう使っていくか、どう遊びに変えていくかっていう楽しさを作るのが大事だと思いました。園の子供たちと花苗や芝生植えたり、子供たちも自分たちで作った庭を誇らしげに親御さんに説明したりして、楽しかったな~。 

RIK
保育園って外部と遮断された空間のイメージがありますが「まちの縁側」ですか。珍しい取り組みですね。 

山口
園の前は道路なんだけど実はフェンスもないんです。もちろん園児が飛び出さないような工夫はしていますけど。でも地域の人たちが「ここは子どもたちがいるからゆっくり走ろう」と思いながら通る意識が生まれること、それが大事で。その思いやりがコミュニケーションに繋がると思うんですよ。散歩の途中に園庭のベンチに腰掛けて、子どもたちとコミュニケーションとったりとかそういうのが大切現代は地域のご近所同士の付き合いが希薄じゃないですか。熊本の地震の時も人と人が離れすぎていて、所在不明の人がわからないとか、色々困ったこともあったようで。地域にコミュニティの場所が一つあって、普段顔を合わせていればもし災害なんかが起きてもあの人は無事か、あの人はどうしたんだろって意識し合うようになると思うんです。
RIK
地域の定期的な催しなんかに参加しようと思ってもなかなか時間が合わず参加できなかったりするので「まちの縁側」の方は気楽というか、さりげない感じのコミュニティの場でよさそうですね。 

山口
僕は庭っていうのは、そこまでできると思っています。庭の役割って生活の一部、住宅の一部分っていうだけではないと思うんです今は周囲との付き合いやコミュニケーションが分断されていても、誰もなにもいいません。庭先をコミュニティの場にして話す、なんてこともあまりありません。自分たちだけの閉じられた庭は、なんだかすごくスケール感が小さいような気がしています。
RIK
閉じられた庭、ですか…。

山口
庭の仕事をしていて思うことは「固定概念」がすごく多いなあということ。「こうしないとダメ、こうしたらいい」とか…それって誰がきめたこと?って思います。蓋をあけたら江戸時代からなにも変わってなかったりもするし、イングリッシュガーデンだったらヨーロッパが正しいとか、決められたスタイルみたいなのがありますよね。それが悪いっていうんじゃなくて、それがその場に合うならそのままでいいだろうけど、もっと自由であってもいいのにとは思います柔軟性がないというか。
RIK
山口さんのいう自由な庭づくりとは? 

山口
自由っていうのはただ尖ったカッコイイもの、ぶっ飛んだだけのものを自由って言っているんじゃなくて庭づくりの基本中の基本は絶対に守りつつ、もっとその家の人に根ざしたもの、地域性に合わせて色々柔軟に対応することが「自由な庭づくり」かな。例えば、里山だったり雑木の庭だったり、色々昔のキーワードが庭のトレンドとして扱われているでしょ。でもそれって誰かが「いい」って言ったから流行ってるだけかもしれない。本当にその家に住まう人に根ざしてると言える?もっと自由にもっと柔らかく、考えるべきじゃない?って100年残るものをつくりたい、300年、400年残るものをどうつくるべきか、それは“その空間を大事に慈しんでくれる人々”をつくるべきなんです。すべては人なんです。施主を育てるじゃないけど、厚かましいことではあるけれど、いい施主さんならこっちが庭の中に遊び心を入れたことに気づいてくれて楽しんでくれたり、共に愛してくれたり。それが粋ってもんだと思います。それができる庭は流行りのトレンドを取り入れたどんな庭より、オシャレであると思います。
RIK
確かに、樹形が美しいということで、最近は山採りの樹木も流行っていますよね。 

山口
樹形のかっこよさ、絵的な美しさを優先して庭にしつらえてしまっている例もありますね。東北からとってきた山採りの木を違う地域に植えたら絶対焼けてしまうし、山の木の幹がすっと伸びやかで美しいのは少しでも光を取り入れようと伸びやかになるからあの樹形なわけで、それを市中に植えたら幹の樹形はもちろん変わってきます。樹木は生きているんだから。山で美しく紅葉していた山の木は、市中に植えれば日が当たりすぎて葉が焼けて山の中で紅葉してた色とは別の色になりますよ。木にとって環境の違いが大きすぎることが気になります。美しい建築物の前に美しい自然樹形の樹木をおいたら、確かに竣工時は美しいでしょう。でも根付かずに枯れたりとか、根付いたとしても荒れたりとか、それが増えてしまうのが問題なんじゃないかと。もちろん、木にとっての生育環境を考慮した上で植えるのならなんの問題もないのですが。
RIK
そんな結果になると残念ですね…。山口さん自身は山採りの樹木は使わないんでしょうか? 

山口
僕は生産木しか使いません。僕が今やってるのは生産木を山採りっぽく剪定して里山の風情だったり、山の木の樹形の美しさだったりを演出することです。技術があれば生産木だって十分、演出できますただ山から採ってきて植えればいいってもんじゃない。切る技術、それだけで木は驚くほど樹形も枝ぶりも変わるんです。それを理解しないと。雑木風の庭も流行っていますが、雑木は手入れが難しいので10~20年もしたら手に負えなくなるかもしれないというリスクもあります。本気で雑木林を作りたい、成長した雑木を薪にしたいっていうんならわかりますけどね。簡単に「山の景観」を取り入れようとしすぎなんだと思います。「自然派志向」が過ぎるというか。その地域、その街にあった庭が一番いいじゃないか、と思いますけどね

RIK
なるほど。トレンドでも伝統でもなく、もっと本質的に施主や地域によりそうべきなのかもしれないですね。今後、挑戦したいことなどありますか? 

山口
月に枯山水を作りたいです
RIK
え…?(ふざけていると思って話しの続きを待っている) 

山口
月で地球を借景にして枯山水をつくりたいんです。ふざけてるんじゃなくて、本気でそう思ってるんです。テクノロジーがどんどん進化して月に自由に行くような、住む時代になるかもしれない。そうしたら水や木がない中でどうやって庭に表現するかっていったら枯山水しかないですよね。しかも地球を借景にこんなに理にかなって美しいことはないと思うのでそれが今後の目標です。
RIK
ほ、本気なんですね!でもなんかそれって見たことのない、想像を遥かに超えた美しさのような気がします。今後の活躍も期待しております! 

 

山口 陽介 氏
1980年長崎県波佐見町生まれ。高校卒業後京都の庭師の元で作庭を修行し、ガーデニングを学ぶためイギリスに渡る。王立植物園KEW内の日本庭園を担当しつつ、イギリスの生活に根ざしたガーデニングを学ぶ。帰国後、日本の長崎に拠点を置き日本と世界で作庭する。

◆受賞歴
2006年都市緑化機構 緑のデザイン賞 緑化大賞
2010年東京インターナショナルフラワー&ガーデンショー 銀賞
2013年ガーデニングジャパーンカップ最優秀賞 金賞
2013年ガーデニングワールドッカプ 銅賞 特別賞
2014年シンガポールガーデンフェステバル銀賞
2014年都市緑化機構 緑のデザイン賞 緑化大賞
2014年都市緑化機構 緑のデザイン賞 緑化大賞 日本初W受賞
2015年都市緑化機構 緑のデザイン賞 緑化大賞
2016年都市緑化機構 緑のデザイン賞 緑化大賞
2016年 シンガポールガーデンフェステバル金賞

「草木も人も「イノチ」がある。草木に感謝し接してれば、草木が教えてくれる。みんな、場所と草木に活かされてる。
だから・・僕は庭師ではなく、庭と共に育つただの人でありたい。 庭人 山口陽介」

 

有限会社 西海園芸 長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷1661